Series / 酒の分類学 ・ vol.03

酒の分類学 第三章 日本酒 ― 精米歩合という物差し、吟醸と大吟醸のあいだ

2026.09.15
酒の分類学 第三章 日本酒 ― 精米歩合という物差し、吟醸と大吟醸のあいだ
連載「酒の分類学」について

同じ一本のビールが、酵母で見れば「エール」、原料の比率で見れば「発泡酒」、造り手の設計で見れば「IPA」と呼ばれます。酒の分類は一つではありません。何を基準に線を引くかで、まったく別の説明になります。

この連載では、ビール・日本酒・ワイン・ウイスキー・ジンを順にたどり、酵母、工程、原料、混ぜ方、香りの付け方——それぞれの観点がどこに線を引いているのかを、微生物学と酒税法・EU規則など様々な視点から読み解きます。

「精米歩合50%」。日本酒のラベルでよく見るこの数字は、米の半分を削り落としたという意味である。食用米の精米歩合が90%前後であることを思えば、なかなか乱暴な行為に見える。なぜそこまでして削るのか。そして「吟醸」「大吟醸」という名前は、どこで線が引かれているのか。

ビールの分類が「酵母」と「工程」で引かれていたのに対し、日本酒の分類は原料をどれだけ削ったかという、まったく別の軸に置かれている。しかもそれは、国が告示で定めた法的な基準である。

特定名称は、国が定めた表示ルール

まず押さえておきたいのは、吟醸・大吟醸・純米といった呼び名が法的な表示基準だという点である。根拠は国税庁告示「清酒の製法品質表示基準」(平成元年11月国税庁告示第8号、平成2年4月適用)[1]。

ここで定められた特定名称の清酒は8種類ある。全体像を先に置く。

特定名称精米歩合醸造アルコールその他の要件
純米大吟醸酒50%以下添加なし吟醸造り、固有の香味・色沢が特に良好
大吟醸酒50%以下添加あり吟醸造り、固有の香味・色沢が特に良好
純米吟醸酒60%以下添加なし吟醸造り、固有の香味・色沢が良好
吟醸酒60%以下添加あり吟醸造り、固有の香味・色沢が良好
特別純米酒60%以下 または 特別な製造方法添加なし香味・色沢が特に良好。特別な製造方法は要説明表示
特別本醸造酒60%以下 または 特別な製造方法添加あり同上
純米酒規定なし添加なし香味・色沢が良好
本醸造酒70%以下添加あり香味・色沢が良好

この表から読み取れることが三つある。

第一に、「純米」かどうかは精米歩合と無関係である。醸造アルコールを添加しないものが「純米」と名乗れる。縦軸に精米歩合、横軸に純米か否かを取った二次元の表として整理できる。「純米大吟醸酒」は、その表の一つのマスの名前にすぎない。

第二に、純米酒には精米歩合の下限規定がない。かつては70%以下という要件があったが、現在は削除されている。精米歩合80%や90%の純米酒が存在しうるのはこのためだ。ただし精米歩合そのものはラベルに表示することが求められる。

第三に、表に書ききれない共通要件がある。特定名称を名乗るには、こうじ米の使用割合が15%以上でなければならない(白米の重量に対するこうじ米の重量の割合)[1]。また醸造アルコールを添加する場合、その重量(アルコール分95度換算)は白米の重量の10%以下に制限されている[1]。「アル添」は無制限ではなく、上限つきの設計なのである。

数字の向きに注意

精米歩合とは、白米の重量 ÷ 玄米の重量の割合である[1][3]。

60%とは「60%削った」のではなく「40%削って、60%が残った」。数字が小さいほどよく削られている。直感と逆なので、ここは間違えやすい。

精米歩合削り落とした割合目安
90%前後約10%一般的な食用米
70%30%本醸造酒の上限
60%40%吟醸酒の上限
50%50%大吟醸酒の上限
35%65%高精白の大吟醸に見られる水準

なぜ削るのか ― 米粒は均質ではない

さて、本題である。なぜそこまで削るのか。

理由は単純で、米粒はどこを切っても同じ成分でできていないからだ。胚芽や表層部にはタンパク質・脂質・灰分・ビタミンが多く含まれ、中心に近づくほどデンプンの純度が高くなる[3]。

成分米粒の中での分布酒質への影響
デンプン中心部に多い糖化されアルコールになる。酒の本体
タンパク質外層に多い分解されアミノ酸に。うま味だが多いと雑味・重さ
脂質外層に多い酵母のエステル生成を抑える方向に働く
灰分・ビタミン外層・胚芽に多い過剰だと香味を損ねる

タンパク質は、麹の酸性プロテアーゼによってペプチド・アミノ酸に分解される。アミノ酸は酵母の栄養源であり、うま味の素でもあるが、多すぎると雑味や重さになる。日本醸造協会誌でも、米タンパク質の量と酒造適性の関係が論じられている[2]。

脂質はさらに厄介で、酵母のエステル生成を抑える方向に働くことが知られている。エステルとは、第一章で見た酢酸イソアミル(バナナ様)やカプロン酸エチル(リンゴ様)——つまり吟醸香そのものである。

だから削る。削れば削るほど、発酵タンクに持ち込まれる窒素源と脂質が減り、酒質は淡麗になり、エステル由来の吟醸香が相対的に際立つ。

高精白の第一の目的は「雑味を取る」ことというより、香りの舞台を空けることなのだ。吟醸酒の要件に「吟醸造り(低温でゆっくり発酵させる)」がセットで入っているのも同じ理屈で、低温はエステルの揮発と分解を抑える。高精白と低温発酵は、同じ目的に向けた二本の手である。

心白 ― 削られる前提でつくられた米

ここまでの話は「削りたい」という願望である。実際に削れるかどうかは、米の側の問題だ。

食用米を半分まで削ろうとすれば、たいてい割れる。高精白を可能にしているのは、酒造好適米(山田錦、五百万石、雄町など)の粒の構造である。醸造用米は食用米に比べてタンパク質が少なく、しっかり精米できる大粒であること、そして米粒の中央部に白く不透明な心白(しんぱく)を持つことが特徴とされる[4]。

心白が白く見えるのは、色素があるからではない。米がデンプンを蓄積するとき、中心部の集積が粗になって細かい隙間ができ、そこで光が乱反射するためだと説明されている[4]。

この「隙間」が二重に効く。

心白がもたらすもの醸造上の意味
吸水時に亀裂が入りやすい蒸米内部へ麹菌の菌糸が侵入しやすい
やわらかく隙間が多い菌糸が中心へ深く均一に入る=破精(はぜ)込みが良い
大粒で砕けにくい精米機の摩擦と熱に耐え、高精白に耐える
低タンパク・低脂質そもそも削るべき成分が少ない

麹菌の菌糸が米の内部まで届かなければ、デンプンは糖にならない。よく破精込んだ麹は、糖化と、その副産物であるアミノ酸供給の両方を設計どおりに進める鍵になる。高精白と良い麹は、品種の側からあらかじめ準備されているのである。

なお精米は削ればよいというものではなく、摩擦熱で米が変質しないよう、時間をかけて少しずつ削る。高精白の酒が高価なのは、削って減った分(歩留まり)だけでなく、この時間のコストでもある。

それでも、精米歩合は品質の順位ではない

ここが本章でいちばん伝えたい点である。

表示基準は「大吟醸のほうが吟醸より上等」とは一言も書いていない。書いてあるのは、精米歩合の上限と、香味・色沢が良好(大吟醸は「特に良好」)であること、という要件だけだ[1]。

削れば淡麗で香り高い方向へ行く。しかし削らなければ、米のうま味やコクは残る。純米酒の厚みも、精米歩合80%台の酒が持つ穀物感も、削らなかったからこそ得られるものだ。近年は低精白を積極的に設計する蔵も増えている。

高精白(削る)低精白(削らない)
タンク内の窒素源・脂質少ない多い
酒質の傾向淡麗、透明感、吟醸香が立つ厚み、コク、穀物感、酸が乗りやすい
合わせやすい料理の例繊細な前菜、白身魚脂の乗った料理、熟成チーズ
原料の使い方歩留まりが低い米を無駄なく使える

精米歩合は方向を示す座標であって、優劣の目盛りではない。ラベルの数字は「この蔵はどちらへ向かったか」を読むために使いたい。

定義・特徴・味わいの早見表

制度と科学を一枚にまとめておく。左の二列(定義・特徴)は告示に基づく事実、右端の一列(味わい)は一般的な傾向である。

名称定義の核(告示上の要件)造りの特徴味わいの傾向
大吟醸酒・純米大吟醸酒精米歩合50%以下、吟醸造り、香味・色沢が特に良好米の半分以上を削り、低温で長期間発酵させるタンパク質・脂質が少なく淡麗で透明感がある。リンゴ・バナナ様の吟醸香が際立ちやすい
吟醸酒・純米吟醸酒精米歩合60%以下、吟醸造り、香味・色沢が良好上記より削りは控えめだが、同じく低温発酵香りと米の味の中間。吟醸香を持ちながら、味の厚みも残りやすい
特別純米酒・特別本醸造酒精米歩合60%以下、または特別な製造方法(要説明表示)精米以外の工夫(特定の米、長期低温発酵など)で名乗る場合もある蔵の意図が出やすい区分。ラベルの「特別な製造方法」の記載を読むと方向が分かる
本醸造酒精米歩合70%以下、醸造アルコール添加(白米重量の10%以下)少量のアルコール添加により香りを引き出し、酒質を軽くするすっきりとしてキレがあり、燋をつけやすい。食事に合わせやすい方向
純米酒精米歩合の規定なし、醸造アルコールを使わない米・米こうじ・水のみ。低精白を積極的に選ぶ設計もありうる米のうま味とコク、酸が乗りやすい。低精白なら穀物感が出、熤成や熫で味が開くことも多い

この表の「味わいの傾向」は、告示に書かれていることではない。告示が定めているのは精米歩合と原料の要件だけであり、味はその結果として現れやすい方向にすぎない。同じ純米大吟醸酒でも、酵母・水・発酵管理・熬成の有無で味は大きく変わる。

本章のまとめ

次章では、同じ日本酒のラベルに現れるもう一つの言葉——「生酛」「山廃」「菩提酛」を見ていく。そこでは分類の軸が、原料ではなく微生物の育て方に移る。

参考文献・一次情報

本文中の番号[1]〜[4]は、以下の公的資料・学会誌に対応する。

  1. 国税庁「清酒の製法品質表示基準」(平成元年11月22日国税庁告示第8号)。告示本文:https://www.nta.go.jp/law/kokuji/891122/02.htm 概要:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/hyoji/seishu/gaiyo/02.htm(特定名称8種類の要件、こうじ米使用割合15%以上、醸造アルコール10%以下、精米歩合の定義)
  2. 古川幸子「米タンパク質がもたらす食味と酒造掛米適性の美味しい関係」日本醸造協会誌. 2008;103(3):145–149. doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.103.145(米タンパク質と酒造適性)
  3. 国税庁(札幌国税局)「精米歩合とは」https://www.nta.go.jp/about/organization/sapporo/sake/02a.htm(精米歩合の定義、胚芽・表層部の成分と酒質への影響)
  4. 独立行政法人 酒類総合研究所「清酒(よくある質問)」https://www.nrib.go.jp/sake/sakefaq02.html および 上島脩志「酒米における心白発現の遺伝」(酒類総合研究所講演録)https://www.nrib.go.jp/data/kouen/pdf/39kou08.pdf(醸造用米の特徴、心白の構造と破精込み)

※注意点:本章は表示制度と製造の科学を記述するものであり、飲酒を推奨するものではない。アルコールの摂取には健康上のリスクが伴い、20歳未満の飲酒は法律で禁じられている。表示基準は改正されることがあるため、最新の内容は国税庁の公表を確認されたい。また酒質の傾向として述べた記述は一般的な方向性であり、個々の銘柄がそのとおりであることを保証するものではない。

#日本酒 #酒の分類学
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